いつもの公園に行った。
特別な名所でもない。
観光地でもない。
ただ、家から歩いて行ける、あの公園。
冬のあいだ、何度もここで日向ぼっこをした。
ベンチに座って、何もせず、ただ光を浴びる。
若いころは、こんな時間を無駄だと思っていた。
何かをしなければ。
どこかへ行かなければ。
成果を出さなければ。
でも今は違う。
何もしない時間が、いちばん贅沢だと知った。
今日もいつものように座っていたら、
枝の先に、ひとつ、淡いピンクが見えた。
桜が咲いていた。


まだ一輪。
空気は冷たい。
背景の街はいつも通り動いている。
それでも、春はちゃんと始まっていた。
満開よりも、
こういう最初の一輪が好きになった。
派手さはない。
でも確かに、季節が動いた証拠。
急いでいる人は、きっと気づかない。
スマホを見ながら歩く人も、
仕事に向かう人も、
忙しい人は通り過ぎる。
立ち止まれる人だけが、
春の最初を見つけられる。
日向ぼっこは年寄りの贅沢だ。
焦らない。
競わない。
追いかけない。
だから、小さな変化が見える。
桜は、ただ咲くだけ。
誰に見られなくても、
評価されなくても。
それでいいのだと思う。
若い頃は、未来を見ていた。
今は、今を見ている。
いつもの公園で、
いつものベンチで、
いつもの光の中で。
春が始まった。
それだけで、今日は十分だ。
70の春も、悪くない。