「おはよう」という90の爺さんの声で目覚めた。
「シッ、まだ、3時」という冷たい看護婦さんの返答。
クソゥ、目覚めの悪い朝である。
5時にお約束のようにスマホのアラームがなった。
持ち主は今ICUに入っている。
鳴っては止まり、鳴っては止まりを繰り返す。
電源切ってから、手術に出かけて欲しかった。
そんな余裕もなかったのであろう。
今、この病室から二人の患者が手術の後のICUに入っている。
ICUには6人しか入れないから、すごい確率である。
入る前、二人にいろいろICUの説明がされていた。
二人とも初めてのようである。
いつも枕元には看護婦がいます。
機械がずっと体の様子をチェックしていますから安心してください。
聞き方によっては天国のような、いいところのように話していた。
二人とも安心してICUに入っていった。
今頃、気付いているだろう。
ここは地獄やと・・・
あの雰囲気は一種独特である。
生死をさまよっている人が入っているところである。
機械の音がずっとしている。
なんども、ICUを経験したが、もうあそこには入りたくないと思っている。
二人がICUに入っているので、今、部屋は、90の爺さんと二人である。
爺さんはいつもつぶやいている。
キーワードは決まっている。
シベリアがよんでいる・・
従軍司令部の誰それは・・
戦争を懐かしむ年寄りは珍しい。
よっぽどいい時を過ごしたのであろう。
そして、最後の言葉は、もうすぐお迎えが来るというフレーズで終わる。
この三つのフレーズがずっと繰返されている。
看護婦さんは、皆、何回も聞かされている。
しかし、まだ看護婦さんはいい。
私などは、もう100回以上聞かされている。
この爺さん、百まで生きるだろう・・
爺さんは退屈すると、よっしゃ、飴でも舐めてやるか、と言って静かになる。
つぶやかずに、黙って飴を舐めてろと言ってやりたい。
これが頭に残っていたのであろう。
昨日、コンビニで飴を買おうとしていた自分がいた。
同じように飴を舐めるのは癪だから、チョコレートを買った。
さて、今日は11月最後の日。
そろそろ退院の言葉も聞かれていいと思うのだが、その気配すらない。
昨日、今年の大晦日は勤務日という看護婦さんがいた。
一緒に年を越しましようね、という目をしていた。
今日のランキングバナーはイチョウ流れる秋の川。
秋写真も今日で終わりである。
いつも応援ありがとうございます。