夜中、助けてくれ〜、助けてくれ〜と、老婆のか細い声が聞こえてきた。
誰か気がつくだろうと思ってしばらく聞いていたのだが、誰も気づく様子がない。
聞こえる方向はトイレからなので、トイレに行って倒れた人がいるのかと思い、ナースステーションに連絡した。
看護婦さんが確かめたところ、トイレからではなく、個室からだった。
言葉は助けて〜ではなく、外して〜だった。
点滴か、何かが体についているようで、それが邪魔になって外して〜という言葉になったようである。
これは外せないものだからと、看護婦さんが説得して、その声が聞こえなくなつた。
が、しばらく寝付けなかった。
そして、早朝今度は私の体に変な予兆が。
腹の方を液体が流れていく。
気持ち悪い。
服も濡れている。
傷口から、体液が溢れているようである。
テープで漏れないようにしているのだが、中に入れているガーゼが少なかったようである。
今も腹の方まで体液が流れてきて気持ち悪い。
ガーゼ交換は医者にしかできないので、しばらく我慢しないといけない。
昨晩から、カミさんにいつもより多く染み出しているから、看護婦さんに確認してもらった方がいいと言われていた。
最近元気なので、看護婦さんが私のところに来る回数が少なくなっている。
夜は一回だけである。
前は何回も見に来ていたのだが・・
血圧、体温を測っただけで、その一回を終わらせてしまった。
以前は、必ず傷の確認をしてくれていたのだが、もう最近は、健常者扱いである。
まあ、そんなことで不機嫌な朝を迎えた。
日曜になると治療がないので、外出や外泊をする人が多い。
昼間はずっと静かであった。
一週間で一番人が少ないのが、日曜の昼。
そのためか、食事は一番いいのが出る。
どこにもいけない人を慰めてくれているのであろうか。
本日のメニューは見ての通り、カレーである。
卵付きである。
サラダもついて、さらにデザートは果物のヨーグルトである。
朝から運が悪かったが、一気に機嫌を直すことができた。
夕食後、談話室から面白い話が聞こえてきた。
よくリハビリで会う人の声である。
話したことはない。
松葉杖をついて、足のリハビリを続けている人で、入院も長い。
病院内を移動するときは車椅子で移動している。
とにかく声の大きい人で百人いても聞こえる音量で話すので、聞きたくなくても聞こえてくる。
誰にでも仲良く話しかける性格の持ち主て、ほとんどの時間を談話室で過ごしている。
今日の会話はこのようなものであった。
朝から外出していたようである。
顔が黒くなったと言われ、三時間ほど歩いたからだと答えていた。
電車に乗ってデパートに行き、おはぎを食べて美味しかったと話していた。
ふと、首をかしげてしまった。
病院内を車椅子で移動しないといけない人がこの炎天下三時間歩いた・・・
たしかこの人は血糖値が高いと言われていたはずだが、おはぎを・・・
ひょっとして、もう入院必要ないのでは・・・・
たしか交通事故に遭い、入院していると言っていた。
今年、退職したとも言っていた。
本人から面と向かって聞いたわけではないが、ほかの人と話している内容が丸聞こえなので、知りたくもないことを知ってしまう。
今日もいろいろあった。